みなさん、こんにちは。
今日は、狩野芳崖(かのうほうがい)の 『悲母観音(ひぼかんのん)』についてです。
さらに、それに関連して、〈観音〉とはどういう仏なのかについて、お話ししてみたいと思います。
Contents 目次
1、名作『悲母観音』とは
1、狩野芳崖の渾身の作
『悲母観音』は、明治21年(1888年)に芳崖が、その死の4日前まで描いていた作品です。
「人生の慈悲は母の子を愛することなり。観音は理想の母なり。万物を起生発育する大慈悲の精神なり」
芳崖は初の重要文化財に指定された本作に寄せ、このような言葉を遺しているのです。
この作品は、中国の明代の仏画を模範としているそうです。
さらに遠近感を出すなど、西洋画の研究のあとがうかがえますね。
「悲母」観音は、「慈母」観音とほぼ同じ意味と考えてよいでしょう。
子供に対する母親の愛がこの作品の主題となります。
2、「過去の名作をはるかに超えている」と絶賛した岡倉天心
母と妻をとても敬愛した芳崖。
彼は妻が亡くなった後に、その気持ちを込めて、母性への礼賛を自身の作品に込めていったのですね。
そして、その精神を観音菩薩の慈悲心へと昇華させたのが、この歴史的な作品となったのです。
この悲母観音は、水瓶から聖水を落としています。
この聖水によって赤ん坊に命が与えられているような内容になっています。
こうした構図は、芳崖の独創と言われています。
〈狩野芳崖〉
この作品は日本美術を高く評価したフェノロサが、「聖母マリア図」に匹敵するような作品を描いて欲しいとのことで、芳崖に依頼した作品だそうです。
狩野芳崖の最高傑作として名高い『悲母観音』は、日本画における近代化の幕開けの記念碑的な、日本美術史上重要な作品となりました。
完成後には岡倉天心が「近世にこの絵画に比べうる作品はない。過去の名画をはるかに超えている」と絶賛したといいます。
2、菩薩とは、何か?
ここからは、〈菩薩〉と〈観音〉についてみてみましょう。
1、たくさんの種類がある観音菩薩
さて、〈観音〉とは、観世音菩薩のことです。
観自在菩薩ともいいます。
この菩薩の原名は、アヴァローキテーシュヴァラ(Avalokitesvara)です。
悲母観音(慈母観音)は、中国で誕生した観音なので三十三(化身)観音のなかには数えられてはいません。
ですが、日本では広く信仰されているのです。
「三十三観音」とは、観音菩薩がその姿を変えて人々を救済するという三十三応現身にちなんで選定された三十三種類の観音菩薩です。
観音菩薩が、さまざまな姿をとって現れて、法を説き、人々を救い上げる。
これがいわゆる「三十三身十九説法」の由来です。
三十三観音の中から有名なものをあげてみましょう。
聖観音、千手観音、十一面観音、馬頭観音、不空羂索観音、如意輪観音、准邸観音、水月観音
などですね。
2、多くの大乗経典に登場する観音菩薩
有名な『観音経』は、正確には、『観世音菩薩普門品(ふもんぼん)』といいます。
これは、『妙法蓮華経(法華経)』の第二十五品(第二十五章)にあります。
この『観音経』は、本来は、単立の短い経典としてインドに生まれたようです。
それが、いつしか『法華経』に付随するうちに、中に編入されたものと言われています。
さらに観音菩薩は、『般若心経』『華厳経』など、そのほかの多くの大乗経典にも登場します。
これほどまでに、仏教全般に普及した大人気の観音菩薩ですが、本来は、仏教の内部に生まれたのではありません。
実は、インドのヒンズー教やイランなど、外部の神から、取り入れられたという説が強いようです。
3、菩薩という観念
そして、〈菩薩(bodhisattva)〉の語は、紀元前2世紀頃以降に出現したようです。
つまり、釈尊(ブッダ、釈迦)がなくなって数百年ののちに、初めて〈菩薩〉という言葉と、その観念が出現したそうです。
そして大乗仏教の発展とともに、〈菩薩〉は最も頻繁に登場する存在となって成長していくのです。
では、そもそも〈菩薩〉とは何でしょうか?
その意味するところは、次のようになります。
智も、徳も、行も、すべてに傑出し、現在はまだ仏ではないけれども、必ず仏となることの確定している「候補者」
です。
そして、菩薩にも様々なものがありますが、その中で最も広く親しまれて、人気があるのが、(観音)なのですね。
今回は、歴史に残る名作『悲母観音』と、〈観音菩薩〉について、簡単にまとめてみました。