〈輪廻転生〉についてお話しする場合、どうしても知っておきたいのが、チベット仏教における〈活仏(かつぶつ・トゥルク)〉です。
ここでは、チベットにおける輪廻転生と〈活仏〉・・・「転生ラマ」について、簡単にご説明いたします。
[チベット密教の歴史については、私の 〈チベット密教〉の歴史を、簡単に解説します をご参照ください。]
Contents 目次
1、活仏とは、どういう存在か?
まず、〈人〉そして、あらゆる〈生き物〉は死んでそれで終わりではないというところから始まります。
そして、カルマン(業)を解脱しない限り、輪廻転生の苦しみからは逃れることができない、というのが、チベット仏教(密教)の教えです。
ですから、この娑婆世界に生まれてきているということは、その人が、まだ解脱していないものだということになります。
しかし、実は例外があるのです。
それが〈活仏(転生ラマ)〉です。
〈活仏〉は、すでに解脱していて、輪廻の輪からは抜け出しているのですが、世の中の衆生を救うという菩薩行を実践するために、再びこの世に人間の姿で生まれてきている存在だとするのです。
2、〈活仏〉その特徴とは
チベット仏教における化身としての仏である〈活仏〉は、外見的には普通の人とは変わりはありません。
普通の人と同じように女性から生まれ、家族に育てられて成長していくのです。
そして、最終的には肉体の死を迎えます。
見た目も成長する過程も普通の人と同じですが、では、普通の人とはどこが違うのでしょうか?
それは転生ラマとして生まれた子供には、先に亡くなった〈活仏〉の生まれ変わりだと示す、何らかのサインがあるというのです。
具体的にいますと、
- 前世にかかわる記憶や知識を持っている
- 転生にまつわる予兆や予言や神託と一致している
ことなどがあげられます。
そうした様々なサインによって、その子が転生ラマの〈生まれ変わり〉だと確認されるのです。
3、最初の〈活仏〉は、どんな人?
現在では、数千人の〈活仏〉が存在するといいます。
最初の〈活仏〉というのは、カルマ派の黒帽ラマで、第6番目の仏・獅子如来の化身トゥースム・キェンパ(1110年ー1193年)でした。
この系統を引き継ぐのか「カルマパ」です。
カルマパとは
チベット密教の4大宗派の一つである〈カギュ派〉の教主である化身ラマのことです。
現在は、ウゲン・ティンレー・ドルジェがカルマパ17世として存在しています。
(カルマパ17世)
カギュ派には、黒帽派と赤帽派がありますが、黒帽派が最有力教団となっています。
カルマパは、ダライ・ラマ、パンチェン・ラマに続くチベット仏教における第三の〈活仏〉ともいわれています。
4、活仏の最高位、ダライ・ラマとは
その後、絶大な信仰を集めてきたのがダライ・ラマです。
さて、チベット仏教や輪廻転生について考える場合、ダライ・ラマの存在がまず思い浮かぶでしょう。
ダライ・ラマは、チベットでは最も高貴な転生ラマとされています。
その転生の系譜は、ゲルク派の開祖、ツォンカパの一番弟子である、ゲンデュン・トゥプ(ダライ・ラマ1世)に始まります。
それ以後、ゲンデュン・トゥプの生まれ変わりが現在にまで続いているということです。
1578年、モンゴルの王侯アルタン汗の要請で、青海に説法に赴いたソナム・ギャムツォ(ダライ・ラマ3世)は、アルタン汗の帰依を受けるとともに、「ダライ・ラマ」の称号を得たといいます。
ダライは蒙古語の「大海」、ラマはチベット語の「上人」の意味です。
ココがポイント
その後、ソナム・ギャムツォより2代前のゲンデュン・トゥプがダライ・ラマ1世として追認されました。
強力な軍事力を持つアルタン汗を後援者としたゲルク派は、それ以後、政治的に他宗派を圧倒して、宗教的にも主導権を持つようになっていったのです。
ちなみに、3世の死後、その転生者とされた4世は、チベット人ではなく、モンゴル人のアルタン汗の甥が選ばれています。
そして、「ダライ・ラマ」が、名実ともにチベットの宗教・政治の最高権力者たる国家元首(法王)として君臨するようになるのは、1642年、ダライ・ラマ5世の時代です。
ダライ・ラマが観世音菩薩の化身であるとい言われていますが、この説が普及して確固としたものになったのは、5世の時代です。
ダライ・ラマ14世の言葉
ダライ・ラマの輪廻転生は、はるか遠くの過去にまで、ブッダの時代にまで辿ることができる。
・・・そればかりではない。ブッダの時代の存在さえも、それが最初の存在ではない。
・・・ダライ・ラマの輪廻転生を時間軸を逆に辿れば、観世音菩薩にまで到着するということである。
5、ダライ・ラマ14世とは、どんな人?
現在のダライ・ラマ14世は、13世の死後2年目の1935年に生まれました。
1933年に亡くなったダライ・ラマ13世が亡くなった時には、捜索隊が次の14世を示すサインをもとに探索して見つけだされました。
そのサインとは、
- ポタラ宮に安置されていた13世の遺体の向きが、初めは南向きだったのが、数日後に北東に向きを変えた
- アモイラツォ湖の湖面にAh(ア)、Ka(カ)、Ma(マ)のチベット文字を“視た”
- トルコ石のような碧青と金色の屋根をもつ三階建の僧院、そこから一本の道が丘に続いている映像を“視た”
- ヘンテコな形をした樋(とい)のある小さな家を“視た”
でした。
これらのサインをもとに捜索したところ、ある一軒の農家を発見したといいます。
そこに幼児がいました。
その児は教えられもしないのに彼(捜索隊長のキゥツァン・リンポチェ)を“セラ・ラマ、セラ・ラマ”と呼んで驚かせた。
キゥツァン・リンポチェはセラ・ラマ僧院の高僧だったのである。
(中略)
彼らは(ダライ・ラマ13世)の遺品とそれにそっくりの偽物をいくつか持参した。
男児はいずれも“正しい”ほうを選び、「それ、ボクんだ」と言った。
『ダライ・ラマ自伝』より
こうして1939年に、4歳でダライ・ラマ14世に即位したのです。
6、ポタラ宮とは
「観音の聖地」という意味の〈ポタラ宮〉は、ダライ・ラマの宮殿ですが、これは5世が創建したといいます。
ポタラ宮は、高さが120メートル、東西の長さが360メートルです。
斜面に沿って建造されているために正面から見れば13階だげ、背面から見れば9階立てに見えます。
部屋数は1000以上ある言われています。
5世は、ポタラ宮の造営中に死去しました。
そこで摂政のサンギュ・ギャムツォが、5世の死去を極秘にしたまま工事を続け、工事着手後50年目、5世没後13年目にして完成されました。
7、〈活仏〉第2位のパンチェン・ラマとは、どんな人?
ダライ・ラマに次ぐ高貴な転生ラマとされるのが、同じくゲルク派のパンチェン・ラマです。
ロサン・チョーキ・ゲルツェンに始まるパンチェン・ラマは、阿弥陀如来の化身と信じられています。
現在のパンチェン・ラマ 11世は、
ダライ・ラマ14世が認定したゲンドゥン・チューキ・ニマと、
中国政府が認定しているギェンツェン・ノルブ
の二人がいます。
しかし、ゲンドゥン・チューキ・ニマは、中国政府に連行されたまま消息不明な状態です。
こうした転生ラマに二人が対立する例は、先にあげましたカルマパ17世にもみられます。
8、では〈活仏〉は、死後、何日で転生するのか?
では、〈活仏(転生ラマ)〉の輪廻転生について考える場合、次のような疑問が思い浮かぶでしょう。
それは、
はたして、どれくらいの時間で輪廻転生して生まれ変わってくるのか
ということです。
転生ラマは、地上で活躍した活仏がなくなった後、49日以内にどこかに転生ラマとして生まれ変わってくるというのが、建前です。
しかし実際には49日を超えて生まれた赤ん坊が活仏となるケースが少なくないようです。
考えてみれば、生まれる前のたったの49日前では、妊婦の中の胎児はかなり成長しているでしょう。
そうすると、その胎児にはすでに誰かの“魂”は入っているものと推測されます。
ですので、49日間というのは短すぎるのではないかと思うのです。
ちなみに、現在のダライ・ラマ14世は2年後の転生でした。
9、〈活仏〉制度の問題点
〈活仏〉の存在は、厳しい風土のもとで暮らすチベットの人々を一つにまとめあげる求心力として機能してきました。
そして、活仏の誕生は、固定された社会的な身分を打ち破るチャンスとしての側面あったのです。
そのことが、活仏制度の問題点として浮き彫りにされることがあります。
それはもしも、身内に転生ラマが生まれると、その家族は、たとえ下層階級の身分であっても一挙に貴族に列せられるということ特典があったからです。
転生ラマが出現した家族は、突然に地位と富と栄誉を獲得できるのです。
そうしたこともあって、これまでにチベットでは怪しげな活仏が多数創作されてきたと言います。
こうした事情もあり、ダライ・ラマ14世は、この問題について次のように話しています。
不幸なことだが、チベット社会においては、トゥルク(活仏)、転生ラマは社会的な地位を獲得するステータス・シンボルである。
これほど非健全、非健康的なことはない。
そのため、1960年代の前半期に、私はかくのごとき必然性を持たないトゥルクたちの削減に、大いに努力しなければならなかった。
・・・無用の輪廻転生を確認する必要のないトゥルクたちが、今もたくさん存在する。
こうした問題もあって、ダライ・ラマ14世は、仮にチベット社会が、活仏制度を必要としないこということになるならば、それはそれでかまわないという立場を取っています。
以上、簡単に、チベット仏教における〈活仏〉の転生についてお話ししてきました。
そこには、政治的・世俗的ないろいろな問題点があるようです。
今後、国際情勢の変化に伴って、チベットの〈活仏〉どのようになるのでしょうか。
【参考記事】ブッダ釈尊の説く「輪廻転生」についての私の記事は、⬇︎